モーリシャス(11)

ジュディスを病院へ送り出した後、私たちは部屋へ戻った。今夜は最後のディナー。ビーチで開かれるプライベートパーティーです。

シャワーを浴びて少し横になった。
体が痛い。そして手足が冷たい。
ちょっと横になるだけのつもりだったけど、毛布の下にもぐり込んだが最後、しっかり眠ってしまった。メリッサも夜に備えてちょっと仮眠をとったようで、二人してあわてて身支度をした。

今夜のディナーは本来ならフォーマルなディナーだった。そのためにちゃんと靴だって持って来たのに、場所が浜辺。 私はカクテルドレスに足はゴム草履を履いた。 

メリッサ「JUJU、ゴム草履で行く気???」責めるような声。
JUJU「もちろん」毅然とした声で。

一瞬の間の後

「なんて良いアイディアでしょう!」

メリッサもセクシーだけれども死ぬほど足が痛くなるサンダルを脱ぎ捨てるとゴム草履をつっかけ、二人はいそいそと出かけた。

カクテルは、私の好きなピナコラーダをはじめ、色々なしゅるいが用意されていた。でもなぜかスパークリングウォーターをお願いした。

この数日間で知り合った色々な人たちと写真を撮った。尽きぬお話を楽しんだ。そうこうするうちにディナーの時間となり、ディナー会場に移動した。

モーリシャスは多文化/多宗教がお互いを尊重する素晴らしい国で、その夜のディナーはモーリシャスを表現する料理という事で、フランス料理あり、中華、インド、日本食ありの楽しいメニューだった。だけれども、どうしても食指が動かず、レモンと塩のみで味付けした野菜サラダと、中華コーナーにあった焼きそばを少し食べた。日本食としてなんちゃって寿司が出ていたけれど、どうしても食べる気になれなかった。カシミヤのショールを羽織っていたけれど、どうしても寒く、一度部屋にもどってカーディガンをとって来ると言ったけど、部屋にたどり着くと疲れと体の痛みと寒さで悲しくなるほど。

バスタブにお湯をためてお風呂にしばらく浸かり、それから再びカクテルドレスに着替えたものの、どうしても会場に戻る気になれず、再び毛布の下にもぐり込んだ。ほんのちょっと、ちょっとだけです。

少し眠ってしまったようだった。物音で目が覚めると、メリッサがトイレをするためと私を探すために部屋に戻って来ていた。

寒いから毛布から出たくないと言うと、素早く私のおでこに触れ、「JUJU、熱があるよ」と言った。だから寒くって体が痛いのだ。「ええええ〜熱ぅ?!」

なんとかせねば、まず解熱剤を飲んだ。

「食欲がなかったから、ああ具合が悪いんだろうってすぐ分かった」とはメリッサの弁。普段の私はホントよく食べる。その私の食欲がおちるのは私の具合が悪いとき...

どうしようか、このまま部屋に居ようか?それとも最後の夜、ちゃんと楽しむか? 私はベットから出て鏡をのぞいて口紅を塗り直すと、パーティー会場に戻る事にした。タダなんとなく体が痛かったり、寒かったり、つかれてたりするとグズりたくなるものだけど、自分が病気だ、熱があるとなると、逆になんとか乗り切らなきゃと己を律するパワーが出て来るから不思議です。

会場のステージでは色々な民族舞踊が繰り広げられていました。あああ、栄養をつけなきゃ。デザートを食べる。そしてセガの音楽に乗って会場は一挙に盛り上がっていき、みんなでステージに上がって踊った。

病院に行っていたジュディスも戻って来ていた。車イスにのって!!!
何でも猛スピードで走るチュービングからおちたはずみで足が大脚開きになり、左足の靭帯を切ってしまったとか!? 

12時近くまでみんなと踊り楽しい時間を過ごして部屋に戻って来た。

一晩中、悪寒に悩まされた。たとえ気温が高くても湿度のある空気がイヤだった。何となく皮膚に張りつく湿気が冷たくてイヤだった。朝方、今度は熱が上がって来たのか、体が熱を帯びて来た。おかげでしとっと肌に張りつくように感じてたシーツが自分の熱で乾燥し、なんだか気持ちよかった。

夜が明けた。6月7日、今日は帰国の日。

私たちのフライトは夜の10時頃なので、ホテルを出るのは夕方。それまでお部屋を使わせていただけるよう、フロントとアレンジした。

朝食はパスして、ひたすら寝ていた。
時々起きて水を飲んだ。

おかげで3時頃にはベットを出れるほどになって、急いで荷造りをした。ラム酒でしょ、塩に砂糖に、なんやかやと重たいものが多い。6時過ぎにホテルを出て、空港で夕食をとってフライトに乗る事にした。空港に島の南の方の観光を一緒にしたケンが見送りに来てくれていた。モーリシャスの空港は空港ビルへの入り口に警察が立っていて、乗客しか入る事が出来ない。ケンにありがとうとさようならを言って中へ入った。セキュリティーチェックを受け、エアモーリシャスのカウンターへ行くと、前日の夜一緒に踊ったイサベルやマガ、その他数名のスタッフが制服を着て働いていた。

「今日のフライトにはVIPが乗っています。だからスタッフのスタンバイへの搭乗券の発券はまだOKが出ていません」

なんと私たちが乗る予定のロンドン行きの飛行機にモーリシャスの首相も乗る予定との事で、そういえば空港内には目つきの厳しいダークスーツの姿がチラホラ。待っている間に3人は軽食を食べていたけど、私はやっぱり食べたくない。人間は数日だったらモノを食べなくても死んじゃう事はないので、こういう時は自分の体が発するシグナルを尊重し、何も食べないでフライトに乗った。

幸運にもフライトは空席が多く、空港のスタッフが気を利かせて、4人バラバラの席、だけれども周囲の席が空席の場所に席をとってくれた。私たちは飛行機が水平になったところで、横になった。赤ちゃんもいなくて(笑)帰りの便は11時間爆睡した。

ロンドンでの乗り換えもスムーズだった。ロンドンに着く頃、私もやっと元気が出て来た。ちょっとお腹が空いて来た。

ロンドンからバンクーバーへのフライトはビジネスクラスだった。
隣に座った男性は何人かの人たちと一緒に旅行をしているようで、離陸前の機内、和気あいあいといったムードが流れていた。 話しを聞くとこのグループは、スーダンの刑法の改正のお手伝いをしているとの事。スーダンは戦争が終わって3年になるけれど、まだまだ戦後の緊張感と不安定さ、発展途上、その他諸々多くの問題を抱えています。 

彼らの仕事場/宿泊施設の話し、それから、どうしてそっちの方に会話が流れたのか思い出せないけれど、彼らが数日前に視察して来た女子刑務所の話しを聞かせてもらった。

スーダンでは婚前交渉は犯罪であって、強姦事件が起こると、被害者である女性が刑務所に入れられる事になっているそうだ。だから事件が起こっても女性からは被害届が出ない。それでも風の噂が流れるとその噂に基づいて、女性が逮捕されるんだそうです。男性は男性社会だから罪とはとがめられないらしい。で、女性は男性に依存してしか生きていくのがほとんど不可能だから、物乞いをするか、それでも食べ物が手に入らないと、生きるために盗みをしたり、体を売ったり...そういう女性が刑務所にひしめいているらしい。

ただ、刑務所ではちゃんと食べ物はもらえるし、拷問を受けたりする事はないとのこと。「だったら、普通の世界より刑務所の中の生活の方が幸せなんじゃない」というと、確かにそうかもしれないとのこと。

青い海のモーリシャスのバケーションを反芻していた。

彼はこれから1ヶ月バンクーバーの自宅でボーッとして、それから再びスーダンに戻り、それからミャンマーに行く事になっているとの事。コンサルタントとして、色々な政府の出資のもと、ユネスコや国連、その他多くの組織の依頼によって色々な国の刑法にたずさわるのが彼の仕事だそうだ。

スーダンの刑務所にいる女性の事を思った。水を飲める幸せ、仕事ができる幸せ。安心して眠れる場所があり、ささやかな生活だけど、自分はなんて恵まれているんだろうと私の当たり前の生活に深く感謝した。

おしまい